事例・クリーンかわさき号
エコを最優先した異例の鉄道輸送 「クリーンかわさき号」が体現するクリーンな社会
1995年全国で初となる一般廃棄・資源物の鉄道輸送「クリーンかわさき号」を導入
昨今エコやサスティナビリティといった観点から貨物輸送のモーダルシフトが加速するなか、25年前に一般の家庭から排出される廃棄・資源物の輸送で鉄道輸送を導入し、環境問題の克服に踏み切った自治体がある。「環境先進都市」として全国的な認知を獲得した神奈川県・川崎市だ。
川崎市では、人口増などによる廃棄物急増を背景に「ごみ非常事態宣言」を発令。市の地形が南北に長いということもあり、廃棄物収集トラックによるCO2排出や渋滞などが問題視されていた。そうした課題解決を目標に、1995年全国で初となる一般廃棄・資源物の鉄道輸送「クリーンかわさき号」を導入。それに伴い全国通運では、「クリーンかわさき号」による廃棄・資源物の輸送、取り扱いに関連した資源物積替施設として梶ヶ谷支店を開業。以来、25年間にわたり川崎市環境局との連携を深めるなかで、輸送効率の向上および「環境先進都市」の確立に貢献。鉄道を用いた環境インフラ事業という新たな輸送モデルの実証に成功した。
「クリーンかわさき号」では、主に一般家庭から排出される廃棄物の焼却灰およびミックスペーパー、プラスチック製容器などを積載。北部で発生する廃棄・資源物をJR梶が谷ターミナル駅を経由し南部にある浮島処理センターへ1日1便輸送している。
環境負荷の軽減を重視した取り組みでCO2排出量の大幅削減を実現
同輸送事業を管轄する全国通運 公用営業部は「クリーンかわさき号」の特筆すべき点について、「従来の鉄道貨物輸送で重視されるメリットよりも環境負荷の軽減を重視した異例の取り組み」だと語る。
「鉄道貨物輸送の強みとして、まず環境に優しいということが挙げられますが、加えて中長距離の輸送に強く、例えば東京-大阪間に相当する距離であればトラック輸送よりもコスト面にメリットが生まれる計算となります。こうした条件を前提としたとき、『クリーンかわさき号』の最大の特徴として“輸送距離の短さ”があります。おおよそ550kmからが損益分岐点とされるなか、クリーンかわさき号の輸送距離は27kmしかありません。従来であれば、コスト的にも見合わない距離と言えるでしょう。しかし、川崎市は内陸部から臨海部への廃棄・資源物輸送によるトラック渋滞という問題を抱えていました。その解決策として鉄道輸送を導入し、CO2排出量の大幅削減を実現したという実績があります」
「クリーンかわさき号」導入以降、川崎市は年間300トンのCO2排出量削減に成功。環境負荷軽減を重視した同市の取り組みは、地方自治体にも大きな影響を与えた。また、鉄道愛好家のあいだで滅多にお目にかかれないレア車両として注目を浴びるなど、環境負荷軽減に加えて市のイメージアップにもひと役買っている。運用25年という年月は、「クリーンかわさき号」がいまや市民の暮らしにとって必要不可欠な列車であること、そして川崎市と全国通運との信頼関係を示している。
「『クリーンかわさき号』は、毎週日曜日とお正月の三が日以外ずっと走り続けています。それも生活に密接に関わっているからこそのこと。貨物列車は、生鮮食品から歯ブラシまで本当にいろんなものを輸送していますが、そのなかに家庭から排出される廃棄・資源物を運ぶ列車もあるのだと知ることをキッカケに、鉄道輸送の役割や利点を一般の方にも広く認知してもらえるのではないかと思います。全国通運としても、長年にわたり行政のお手伝いが出来ていることを大変意義深く感じております」
エコかつ安定性のある鉄道貨物輸送のニーズの高まりに、培ったノウハウで対応
CO2の削減やトラック輸送による道路の渋滞緩和など、物流の領域が抱える課題は尽きない。さらに今後は、ドライバー減少による労働力不足や輸送効率化といった観点から、エコかつ安定性のある鉄道貨物輸送のニーズがますます高まっていくと予想されている。そうした動向をふまえ、全国通運では「クリーンかわさき号」という特殊性の高い事例で培ったノウハウを有するプロフェッショナルの視点で、鉄道貨物輸送のさらなる可能性を見据えている。
「現状、鉄道貨物の利用はたった5パーセントにすぎません。しかし、労働力不足の解消や鉄道貨物輸送は、この先さらに伸びていくと考えています。もちろん、鉄道貨物輸送は両端がないと機能しません。だからこそ通運事業者さまの力が必要ですし、あくまで物流は共存で成り立っています。そうしたなかで、今後たとえば廃材やサプライ品の輸送を扱ういわゆる静脈物流の領域で川崎市の事例を応用した新しいスキームの構築など、さらなるサービス拡大を進めていきたいと考えています」